労働条件はどこまで向上できるのか
今回の大前研一氏のコラムは、何か歯切れが悪く、あいまいな結論になっている。
日経BP社 SAFETY JAPAN コラム
企業リスク対策
第73回 労働条件はどこまで向上できるのか
大前研一(おおまえ・けんいち)氏 4月11日公開
景気が回復してきたと報道されるようになって久しい。しかし、少なくともサラリーマンでそれを実感できている人は少数だろう。なるほど、企業は確かに利益を上げているのかもしれない。しかし我々一般の労働者には景気回復の恩恵が届いていない。それが偽らざる実感ではあるまいか。
その「実感」を証明するニュースが先ごろ報じられた。今年(2007年)3月、人材派遣大手グッドウィルの登録スタッフが「派遣ユニオン・グッドウィル支部」を結成し、六本木ヒルズの本社で要求書を提出したのである。ユニオンのメンバーは、要求書提出と前後して紙芝居を上演し、労働条件の向上をも訴えた。いわく、「実際の労働時間より早く現場に到着せねばならないのにもかかわらず、その拘束時間の分の賃金は払われない」「雇用保険や有給休暇がない」―― などだ。同様の派遣ユニオン結成は、他の大手人材派遣会社でも見られる。いずれもここ半年くらいの間の話だ。建設業など現場が転々とする場合の拘束時間は大きな問題だろう。 昔は、朝は早いかもしれないが、日が暮れると片付けに入っていたもんだが、今はそうはいかない。 オフィスワーカーのように勤務場所がいつも同じで、滑り込みセーフというわけにはいかない。 現場作業担当者が、5時、6時に移動開始という話を聞くと、後ろめたい気がしたこともある。
グッドウィルは、人材派遣業界の中でもスキルの高くない軽作業労働者を提供している会社だ。これはテレビCMでもさかんに宣伝している「モバイト・ドット・コム」を見れば分かるだろう。システムを簡単に説明しておこう。モバイト・ドット・コムでは、まず労働者にその携帯電話とメルアドを登録してもらう。そして「こういう仕事があるけれど、やりたい人は手を挙げて」と、希望者を募る仕組みになっている。条件がまとまれば労働者は派遣現場に直行し、仕事に携わるのである。いわば携帯電話とオークションのシステムを合体させたようなシステムなのだ。自分の都合に合わせて、働きたい時だけ働く。 フリーターを効率よく組み込んだシステムだ。 こういう人たちは、個人主義、無党派層と思われていた。 その人たちが、ユニオンを結成した。 明確な意思表示をはじめた。 ここが大きな注目点ではないか。 無党派かもしれないが、自分たちの要求を明確にしはじめた。 政治家も無党派層は読めないとか言ってられなくなるだろう。
今の時代は、同じ人材派遣でも、軽作業派遣のグッドウィル型と、ある程度訓練した人材を派遣するパソナ型へと、二極化してきたのである。双方ともに「派遣」というカテゴリーで競っているが、実はアルバイトに近い形態と、社員と同様の仕事をする派遣・契約社員では大きな違いがある。現状、どちらのタイプもニーズがあることは確かで、また双方とも利益を上げてはいるものの、同時に大きな問題を内包している。特にパソナ型の場合には派遣が半年を過ぎてくると、本採用し正社員にしなくてはいけない、などの法規制の網が既にかぶせられている。
ユニクロのニュースは、この延長線上にある。ユニクロでは今後2年で、6000人の契約社員とパートのうち、5000人を正社員として採用していくことを発表した。正社員にこだわるのはなぜか。 派遣社員でも、契約社員でも、パートでも、それぞれの働き方に応じた待遇改善が求められるのではないか。 正社員への道を開くことで、逆に、派遣社員、契約社員、パートの待遇改善が置き去りにされる可能性を感じる。
例えばエレベーターのルール、つまり、先に入社した人が優先的に社員として確保され、後から入った人は先に解雇されるというようなルールも決めておかないといけないだろう。採用は押しつけられ、解雇はできないというルールでは、会社は維持できないからだ。採用を多く求めるのであれば、今よりも解雇しやすいルールにしないと、バランスが取れない。しかもエレベータールールを長年採用している米国の自動車産業などは高齢者ばかりが残ることになり、ますます高コストで柔軟性のないものとなり、国際競争力を大きく落とす元になっている。アメリカ型の先任権重視のレイオフにもいろいろ問題はあるようだが、日本でもレイオフ(一時解雇)については、もう少し考えてもいいように思う。 日本の場合、解雇、レイオフというとその会社との縁切りのように受け止められる。 景気が回復したら、優先的に再雇用するというレイオフ(一時解雇)を考えてもいいかもしれない。 日曜日の新聞には、よく自動車工場の期間契約の求人が載っている。 これもレイオフを前提とした雇用だろう。 経験者優遇となっているのだから。
もし「より多くの労働者を正社員に」ということになったら、どうなるか考えてみるといい。欧州のように、フルタイムで働いている正社員とパート労働者とで、なるべく同じような労働条件になるように持っていけ、という議論となる。それを推し進めていくと、オランダのようなワークシェアリングに行き着くだろう。全員がパート労働者のような扱いになる。正社員も週4日しか会社に通えない。そうやって、たくさんの人が働けるような環境を作るのである。だが、もし日本がそういうワークシェアリングを採用したら、労働の流動性が非常に乏しいものになってしまう。
わたしは固定部分、つまり最低必要な人材は正社員として採用し、見通しの立てにくい景気の変動などに対しては派遣で、そして一時的に必要な労働力に関してはパートなどの変動社員でまかなうべきだと考えている。そうでないと会社は経営できない。会社が危うくなれば、当然そこで働く労働者の生活も不安定になる。労働者の雇用条件向上は、同時に労働者自身の首を絞める可能性もはらんでいるからである。
私自身は、正社員で固定化されるより、人それぞれの働き方にあわせ、雇用を流動化したほうが活性化すると思う。
どのような働き方を選んでも、ワーキングプアにならないような、社会の仕組み、セーフティーネットが必要だと考える。
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